バルビゾン派を代表する画家ジャン・フランソワ・ミレーの農民画は、ゴッホを生涯にわたって魅了し続けた。グーピル商会の店員だった青年期に、ゴッホは早くもこうした作品に夢中になっていた。そして画家になる決心をした後も《田園の労働》や《種まく人》といったミレーの版画を何度も模写している。1887年パリで開かれた大規模なミレー展は、とくにゴッホに強い印象を与えた。「ミレーやレルミットの後に続いて、まだやるべきことが残されているとすれば・・・それは種まく人を、色彩を使って、大きなスケールで描くことだ」(弟テオ宛の書簡)。この主題を用いた新たな挑戦は、アルルに滞在中の1888年6月、この作品でスタートした。ミレーからインスピレーションを得た農民が、遠く地平線まで広がる畑に種をまいている。画面は大きく二つの部分に分かれ、上半分にはクリーム・イエローの太陽とやや暗い黄色のとうもろこし畑、下半分には青紫の大地が広がり、掘り返された畑には補色の青とオレンジ色のタッチが乱舞する。「種まく行為」は、キリスト教では「神の言葉を広める」ことを意味するが、この年の9〜11月にかけて繰り返し描かれたゴッホの《種まく人》には、色彩の探究という試みに立ち向かうゴッホ自身の真摯な姿が投影されているように思われる。

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