サン=レミ時代の最後、ゴッホがオーヴェールに移り住む前に描かれた作品のひとつである。死の象徴である糸杉が天に届かんばかりに高くそびえ、道を歩く人や馬車を威圧する。今は昼なのか、それとも夜なのか、空には星と月が見えるが、周囲はかなり明るい。色彩の種類は以前に比べるとずっと限定され、ハッチングと呼ばれる細長いタッチが、ときには画面を飛び出さんばかりにうねりながら、画面全体に広がっている。これはサン=レミの田舎道の風景であると同時に、かすかに死の訪れを予感したゴッホの心象風景でもあるのだ。「北に行けばすぐによくなると確信している。・・・僕の運命をここ(サン=レミ)で耐えるのはほとんど不可能であり、これからどうすべきか、はっきりわからない以上、北に帰った方がよいと思うと(医師ペイロンに)告げた。」(ゴッホの書簡)。こうしてゴッホは5月16日サン=レミを発ち、神経科の医師ガシェを頼って、終焉の地オーヴェールへ向かったのである。 |
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